NM/EH 「白い砂漠で朝を迎えたことは?」 「旅行歴の確認か、それとも誘われてる?」 乱闘の後、なけなしのポケットの中身を2人分かき集めた一杯分の珈琲。譲られた最初の一口をつけてから、手渡す。 「イーサンがイエスならハネムーンの提案、乗り気じゃなきゃ言葉通りの質問」 「新婚旅行?君に太腿を切り刻まれたのは何年前のはなしだ?」 「君が僕の指を食いちぎったのはついさ…もちろん苦情じゃない、猟奇的な君も良かった。すごい、痛かったけど」 気まずそうに取り繕うくせになんで最後まで言うんだか。元々、そんな癖はなかったと認識していたが、彼が左手薬指の付け根を擦る。律儀に言いつけを守って真っ赤なまま残っているが、動きからして痛みはないはずだ。 「そこで何があるんだ?」 「新婚旅行だよ、変な事件はない」 「鈍いやつだな、わざとか?」 首を傾けてわかりやすく見上げてやる。いい年をした男が2人、結婚などと言っておきながらそういうことはなかった。なかったは、言い過ぎか。未熟な戯れは幾度となく。欲を司る神の権能か、たったそれだけでも、翌日までぬるま湯に浸かったような不思議な充足感に苛まれる。