色彩のない部屋で、エスは長谷川さよりを優しく見つめた。 「あなたは自分を見つけたわ。私たちの旅もこれでお終い。水先案内人は役を降りるわ。さより」 「待って、エス。私はまだあなたに話したいことが沢山ある」 エスは寂しげに笑った。 「知っているかしら。ダンテの『神曲』でダンテに最も愛情を注いだのは、水先案内人のウェルギリウスなのよ。けど、ダンテが煉獄の山頂でベアトリーチェに再会すると、何も言わずに地獄の第一圏に戻ってしまう。私はあなたのベアトリーチェではなく、ウェルギリウスなのよ」 「待って、エス。待って!」 さよりの呼びかけに、エスは儚げな笑みをみせた。 「さよなら」 色彩のない部屋の壁を、爆音を鳴らすハーレーがぶち破った。 サイドカーから全身タイツの男が手を振る。 「俺ちゃん参上。今日の俺ちゃんは可愛いキューピッドだ。黄色い害獣と声が同じ? 緑色のクソデカい害獣ならショットガンで始末してね。そんで、俺ちゃんが天使で、こっちが女神さまってワケ」 髭面の男がゴーグルを下ろす。 「恋愛コラムニストのしげるだ。二人にはフロイト式恋愛術で、お互いのエッチだと思うところを十個ずつ言ってもらう」