しげるの家に現れた髭面の男臭い素浪人。 「親父。なんでもいいから飯をくれ」 「はッ、血の臭いを嗅ぎつけて野良犬共が集まってきやがる…。ホラ、ズコック丼だ。この辺はすっかり干あがっちまって、ザクなんか出せねェ。ズコックで我慢してくんな。銭は要らねェよ」 ズコックをのせただけの雑炊を啜りつつ、素浪人が言う。 「ハハハ。親父。俺ァなにも端金を稼ごうってつもりじゃねェんだ。杉並区長の田中って代官は偉ェやつで、この辺の連中はみんな住民税の重税で苦しんでやがる。おまけにこの流行り病だ。この辺はすっかり乾いた藁みたいになって、一度、火が点いたら誰にも燃え広がるのを止められやしねェ。あっという間に大火事だ。俺ァその機を待つつもりよ」 「な、なんてやつだ。この疫病神!飯ィ食ったらとっとと出てってくんな!」 「いやいや。ただ飯は武士の名が廃る。俺ァここが気に入ったぜ、親父。しばらくここに逗留するとしよう。一宿一飯の恩を返すまで居させてもらうぜ」 こうして、しげるの家に一人の素浪人が住みついた。