この男の深酒した姿を見たのは初めてだった。商売道具の喉に障るからと普段は口にしない蒸留酒の杯を片手に、行きずりの男にしなだれかかる姿を目にして、何故かひどく苛立ったのを覚えている。思わず声をかければ相手はそそくさと退散し、正体を無くした痩躯を背に負って宿までの道を歩く。 「俺だって、酔い潰れたい時もあるさ」 呂律の怪しい声は、どこか寄る辺なくガープの耳に響く。 「どうせ女のところだろうと、ウェパルは言っていたが」 「流石に女性に醜態を晒すのは、俺の美学に反するからね」 それでも人恋しい時もあるのさ、自暴自棄ともとれる言葉に、ガープの胸の内に得体の知れぬ苛立ちが募る。背中の男が何かに傷付いているのはわかる、が、それ以上の事を彼は知るべくもない。 女でなければ誰でも良かったのか、例えば己でも…ふと湧いた怪しい想念を消すより先に、背中からか細い声が呟く。 「それともキミが、慰めてくれるのかい?」 縋るような言葉を振り解く事はガープにはできなかった。刹那脳裏を過った面影を振り払い低く掠れた声が応える。 「…後悔するなよ」 一日早いですが、お誕生日おめでとうございます!!