「ここが噂の廃病院ね」 「う、うん。でも意外だね。田村さんが心霊現象に興味があるだなんて」 日差しが眩しい。暑熱でシャツに汗が滲む。本当は、僕は心霊現象なんて信じてない。それでも、中学生最後の夏休み。憧れの田村さんに誘われて、断ることなんてできなかった。それが、まさかあんなことになるなんて… 「おやァ?君たち、こんなところで何をしてるんだ」 髭面で眼鏡の、見るからに怪しげな男が近づいてくる。 「そういうオジサンは?」 田村さんは臆せずに反問した。 「クックック。この病院には、経営当時、奇妙な噂があってねェ。…俺は東京で雑誌記者をしてる、しげるってもんだ。月刊『オカルト』って雑誌なんだが、見たことはないかな?」 男は名刺を差しだした。編集部名が書かれている。鞄から出した雑誌の表紙は、おどろおどろしい絵に彩られていた。 「見たことない…」 「クックック。そうだろう。何せ、発行部数は採算ギリギリ。おまけに社長が売掛金を持って夜逃げして、給料も未払いのままだ。もう三日、何も食ってない。…ぐッ!」 男は行き倒れた。 まさか、中学生最後の夏休みが、家で怪しげな男を隠れて飼うことになるだなんて…