「『ダフォース』や『犬の力』を記したドン・ウィンズロウは麻薬に対する国境間の環境差異こそが麻薬戦争激化の主要因であると考えて新聞に麻薬を合法化を求める意見広告を出したらしいわね。本人の深刻な思索とは裏腹に、表面的にはまるで矛盾した行動として現出するのは滑稽だけれど同時にある種の悲劇ね」 色彩に欠けたモノクロ空間の深層で、エスは静やかに言葉を重ねる。しかしオーバーサイズのフータズのTシャツを着た男──恋愛コラムニストであるしげるは彼女の言葉には取り合わず「どうでもいいけどさ〜、ここ、色がないからめっちゃ不便だわ〜」 持ち込んだトランスフォーマーの玩具を得意気に変形させて遊んでいる。 「こんなんじゃさ〜、スタースクリームとブリッツウイングの区別もつかないよ〜。って、さすがにそれはないか 笑」 笑い声を含み、決してエスに通じることのないジョークを飛ばす。 するとエスは小首を傾げてみせたあと、目顔でしげるの玩具をさして「……よくわからないのだけど、“そういうの”って、子供が遊ぶものなんじゃないの?」 「……、……あァ?」