「洒落臭いじゃないか」と長渕剛はキッチンの前で仁王立ちしてる。剛は当時しげるの家に住み着いていたルームメイトのひとりだった。よく磨かれた大鍋の底ではパスタがくるくると泳いでいる。 「恋愛コラムニストがどうとかよ、結局のところ、それって男と女の切った張っただろ。どうもこうもねぇよ」 剛はすらりと伸びた前脚を見せつけて、お得意のシェービングクリームのように滑らかな、彼の中にあるある意味でユニークな世界観を開示するものだから、 「そういうものかね」としげるはレミー・キルミスタのようにしかつめらしく肩を揺すった。 天井から、シーリングファンが気だるく空気を送っている。白く、清潔な光が床板を暖めている。 やれやれ。ともう一度しげるは肩を揺すって、これからしげると剛はセックスするだろう。お決まりの予定調和のような、しかし悪くもない合意があった。 剛はコンロを止めて、おもむろにココナッツとオレンジの匂いがするオイルで手を磨き始める。 完全な自由が存在しないように、完全な意思や選択というものも存在しなくて、なんにせよ、今年の夏も暑くなりそうだった。 きっと、そうなるだろう。