ハーレーには「出張恋愛コラム」の幟が立てられている。しげるは重々しく頷いた。 「よし。お互いの目を見て『好き』と十回ずつ言ったな。俺の恋愛コラムもそろそろ仕上げだ」 エスが忸怩たる様子で言う。 「ダメよ、こんなのは。私はあくまで彼女の内なる鏡像。ラカンの言う『大文字の他者』なの。もし、私が彼女のもとに留まれば、彼女は泉に映った自己と対話しつづけるナルキッソスになってしまう」 「エス…」 さよりは悲痛そうに言った。 全身タイツの男が両手を広げた。 「フロイトなら俺ちゃんも知ってるよ。独身男性にリビドーが溜まると、エロサイトを見てオナニーするんだろ? …俺ちゃんはハーバード大学で『愛』学の単位を取ったわけじゃない。それでも愛しあう二人が別れるのは間違ってるってことくらいは分かる」 エスが声をあげる。 「ちょっと、何してるの!」 しげるがスプレーで、色彩のない部屋に『セックスしないと出られない部屋』と大書していた。 『それからどうなったって? 物語の終わりはいつも同じ言葉さ。それから二人は幸せに暮らしました、ってね。ただし、主人公がグリーンランタンでなければね。ピカピー!』